「コーヒー、カカオ、コメ、綿花、コショウの暗黒物語」・再読(ジャン=ピエール=ボリス著)
2025年7月12日
ほぼ10年前の2008年6月に創成社新書から『世界に広がるフェアトレード』という本を出版してもらった時のサブタイトルが「このチョコレートが安全な理由」でした。その当時から、日本はチョコレートの原材料となるカカオの輸入大国で、ラベル認証等を通じて、開発途上国の生産者らを支援するフェアトレードのチョコレート販売が徐々に広まっていました。また、ここオランダでもUTZなどの認証ラベルが貼られたチョコレート製品がスーパーなどに溢れており、メインストリーム化が進んでいますが、一方でそのトレーサビリティに疑問を持つ消費者も多くなってきています。特にカカオ農場での児童労働者の関与について基準やモニタリングが曖昧なUTZ(妻が本部で1年半ほど働いていました)とは一線を画して、原材料から製品化までのバリューチェーンをしっかり把握していることを売りにしているチョコレートブランド”Tony ‘s Chocolonely”は、オランダ発の板チョコで少し割高ではありますが、スーパーでもきちんと棚に並べられて売られています。
以前の通信でも書きましたが、昨年東京経済大学の渡辺ゼミの学生がオランダを訪問した際に、ユトレヒト近郊の小学校でフェアトレードの授業を参観した時の子供たちは「フェアトレードといえばTony!!」と叫んでいた位、ブランド名が浸透しています。また、日本人でも上質のカカオを求める消費者が増えており、2015年国際チョコレートアワードで金賞受賞したカカオハンターの小方真弓さんが南米のジャングルから見つけてくるレアなカカオを使ったケーキやチョコなども人気が出てきています[1]。

という訳で、ここ最近は生産者の現場からも遠ざかっていて、一消費者になっている私ですが、興味深い記事を見つけました。イギリスの新聞紙でThe Guardianという日刊紙が、先月9月13日付で西アフリカの象牙海岸ではチョコレート産業が熱帯林消失の元凶であるというルポを掲載しました。国立公園で貴重な動物や植物が本来なら保全されるべき地域で、堂々とカーギルなどの多国籍企業が天然林を伐採してカカオ栽培を促進しているという内容です[2]。このルポを担当した研究者によると、調査対象の23保護地区で少なくとも19万5600トンのカカオが生産されたというのです[3]。
この記事に接して、2005年にフランスのジャーナリスト・ジャン=ピエール=ボリスが刊行した『コーヒー、カカオ、コメ、綿花、コショウの暗黒物語』に書かれている内容を思い出してしまいました。当時から繰り広げれているグローバル経済の裏側で苦しむ農民たちという構造が、10年以上経った今なお、ほとんど改善されていないという認識を強くしています。西アフリカの弱体な政府の元で、本来なら保全されるべき地域を、堂々とカーギルなどの多国籍企業が天然林を伐採してカカオなどの商業作物を促進しているという悲しい状況を今回の新聞記事は取り上げており、以前より多国籍企業は巧妙な手口を使っているようにも思えました。関連の記事をしばらく追ってみようと思っています。
[1] https://macaro-ni.jp/21619
[2] https://www.theguardian.com/environment/2017/sep/13/chocolate-industry-drives-rainforest-disaster-in-ivory-coast
[3] Researchers estimate that approximately 195,600 tons of cocoa were produced just in the 23 protected areas the researchers analyzed in 2015 alone. There are 244 protected areas in Ivory Coast in total, suggesting that the volume of illegally grown cocoa is far greater.

(オランダ通信 2017年10月号 *2017月11月1日発行から)
出版情報:作品社(2005)