大学の大先輩・梶光一東京農工大学名誉教授の著書『ワイルドライフマネジメント』を読んで:その1

梶光一東京農工大学名誉教授の著書『ワイルドライフマネジメント』

 今年(2025年)春の盛岡滞在時ですが、4月2日に盛岡駅近くで熊出没騒ぎがあり、別の日には、鹿の罠が掛けられるところを徘徊している熊とそれを貪り食う画像がテレビで放映されるなど野生動物と人間の関わり方が気になっていました。野生動物と言えば、個人的にはどうしても絶滅種や危惧性が気になりニホンカワウソやアマミノクロウサギなどが頭に浮かんでくるのですが、昨今は大型獣(シカ・イノシシ・クマ類)の生育数が日本では急激に増加しており、その分布域も拡大しているのだと気づきつつありました。また、ケニアの国立公園の一つであるアンボセリ(キリマンジャロの麓)ではアフリカゾウが増加して園内の植物だけでは生息できなくなってきていることや、ネパール・インドでは野良ゾウが住民の畑を荒らして迷惑だといった話も思い出したのです。

 そんな折、大学の大先輩である梶さんとメールで連絡が取れて、都内滞在時の4月12日にお会いすることが出来ました。同じく北大の先輩である花岡さん(砂防教室・サイクリング部)と一緒に府中市内のジビエのレストラン「医食屋Nobu[1]」でお会いしていろんな話を聞かせてもらいました。長野県の諏訪湖を舞台にした映画「鹿の国」[2](監督の弘理子さんは、私がネパールで協力隊員をしていた時に長期滞在をしてドキュメンタリーを撮っていた方)の制作に関する話を諏訪出身の花岡さんから聞いたり、とにかく話題が豊富で面白く、レストランでワンオペをしているシェフも合間を縫って色々と話してくれるのであっという間に時間が経ってしまい、本当に贅沢な晩餐でした。

晩餐の場では、うろ覚えながら、北海道の鹿肉は100年以上前にはヨーロッパに堂々と輸出されており肉質も味も申し分ないこと(つまりEU向けに輸出できて稼げる商品)とか、ヨーロッパの大学、特にドイツとかは学部できちんと狩猟学を学び、ライフルを実践で使えるように訓練されている(スウェーデンも然り)といったことが話題になっており、もうちょっと詳しく知りたいなあと少し二日酔いの頭で翌朝思ったものです。

 梶さんの近著は『ワイルドライフマネジメント』とあえて和訳していないタイトル。野生動物管理とでも訳せそうですが、東京大学出版会から既刊で『野生動物管理システム』を出版している(こちら未だ読んでいません)から敢えてこういうタイトルにしたのかもしれません。1冊4200円は高いなあと思いつつも、講演料かな?と思って新宿の紀伊國屋で早速買うことにしました。

 実は梶さんは地平線報告会の3月の報告者[3]でもありました。1985年の黄源流探検以来のご縁とのこと。そこでは次のように紹介されており、最年少の中学3年生から最高齢の90歳の女性まで幅広い参加者が新宿に集ったとのこと。

しのびよる日本シカ天国
  • 2025年3月28日(金)於:新宿区榎町地域センター 4F多目的ホール

日本の鹿研究の第一人者である梶光一さん。野生動物と今後どう共存していくべきかを語っていただきます。「日本では年間60万頭の鹿を獲っているけど、それでも増え続けています。せっかくの肉や毛皮は利用もされず、ほとんどが捨てられてる」というのは日本の鹿研究者の草分け、第一人者、梶光一さん(71)。縄文の昔から野生動物を“畏れ敬いながら利用”してきた日本の技術や文化が途絶えたのはこの一世紀ほど。この間に、鹿、猪、熊などは著しく増えました。「農林業や環境への影響だけじゃなくて、最近はヒトとの接触事故も。でも未だに野生動物とうまく共存する方法論がないのが日本の現状です」。東京の下町出身。北海道大学農学部林学科の学生時代にヒグマを論文テーマに設定。森林管理に野性動物対応の概念が抜けていた当時の日本林学界では異端児でした。当時増えはじめていたエゾシカを対象に変更し、頭数を把握する試みから四苦八苦の手探りをはじめます。「環境適応力も繁殖能力もハンパない日本の鹿と共存するには、獲って食べる仕組みを本器で考えないと」。今月は梶さんに、シカをはじめ、これから我々は野性動物とどうつきあっていけばいいのか、その考え方を語って頂きます!

日本では明治期にドイツ林学の一環として「狩猟学」が導入され、農学系の林学の講義として講じられた歴史があったものの、残念ながら消失してしまったということも初めて知ったのでした。梶さんが北大林学科でクマやシカを研究していた1980年代には、なぜ、林学で動物の研究をするのだと言われていたそうです。それから40年。2024年には書評が林業経済研究所の発行する学術雑誌『林業経済』から出るなど、野生動物管理学といった日本では新しい取り組みに追い風が吹いています[4]。ここ数年は、野生動物による農林業への被害や居住地への出没など、人との軋轢が増加しており、シカなどの野生動物への対策なしには日本の林業が成り立たなくなってきている現実も無視できません。

 日本独自の野生動物管理を提言し確立するための知恵がたくさん詰まっているこの本が多くの人の手に渡ってほしいと願うばかりです。そして、今後は地域に根差した野生動物管理を推進する高度専門職人材の教育プログラムの創設を目指しており、北海道知床半島に2013年開設された公益財団法人・知床自然大学院大学設立財団(この4月から知床自然アカデミーに改称[5])の代表理事に就任した梶さん。高校生から社会人まで幅広い人材が学ぶ場として今後が楽しみです。最後に梶さんが投稿している論文の一部(2025a)を参考までに紹介したいと思います。 “平成の時代に迎えた人口縮小社会では、人間の力が最も弱く、野生動物の力が最も強い社会となりました。野生動物管理は地域を持続させるために必要であり、そのための専門家育成と配置は急務となっています。また、森林におけるシカの管理は都道府県や市町村の事業に委ねるのではなく、日本の林学の源流であるドイツのように、森林管理者が森林管理の一環として主体的に取り組むことが必要です。

(続く)

参考文献:
梶 光一(2025a) 平成林業逸史(61)「野生動物管理と森林管理」山林 1691:10-16 大日本山林会
梶 光一(2025b)特集 野生動物と人間 第一部 野生動物と人間をめぐる関係を見るための視座 学問と実践をつなぐ 野生動物管理学の役割 『森林環境2025』
42-50 森林文化協会 https://www.shinrinbunka.com/publish/shinrin/
梶 光一(2025c)特集 日本人が森に学ぶこと 野生動物管理 ヒトと野生動物はどのように共存するのか 神籬 71:3-8

(オランダ通信 2025年4月号 2025月5月2日発行から)

梶 光一(2023) ワイルドライフマネジメント 東京大学出版会