「安全な水を届けたい」岩手日報No.697号

 安全な水の確保は、SDGs(持続可能な開発目標)のひとつにも掲げられる重要な課題だ(目標6の「安全な水とトイレを世界中に」)。言い換えれば、世界にはまだ安全な水を手に入れることが困難な人が多くいる、ということに他ならない。いまだに世界の約20億人が清潔な水にアクセスできず、アフリカ大陸でも人口のおよそ5割が毎日の生活用水確保に苦しんでいる。

2018年4月にプロジェクトで設置した深井戸の手押しポンプを継続して利用している地元女性とその家畜たち(トゥルカナ郡西部・ウガンダ国境付近)
2018年4月にプロジェクトで設置した深井戸の手押しポンプを継続して利用している地元女性とその家畜たち(トゥルカナ郡西部・ウガンダ国境付近)

 ケニアでも地方によっては、近くに安全な水源が無いため、家畜とかも寄ってくる川沿いの濁った水を止む無く使っている住民や、学校に通う前に1時間以上かけて水を汲みに行く女生徒など、問題は多様だ。

 日本に住んでいると、蛇口から飲み水がほとばしり、水はあって当然のように思えてしまうのだが、ケニアでは生活用水の確保のみならず、水質も大きな問題となっている。また、衛生に関する知識が乏しいために、水に関する啓発や教育もまた非常に重要な課題となっている。新型コロナウイルスのパンデミックを機会に、手洗いが世界で改めて見直される契機になったことも記憶に新しい。

 「少しでも多くの人に、安全な水を届けたい」という願いも込めて、JICAケニア事務所では、これまでも地方給水プロジェクトで深井戸(100メートル以上掘削しないと良質な水が見つからないこともある)を設置してハンドポンプを導入したり、北部のトゥルカナ郡では深井戸の周辺に家庭菜園を導入して、そこで収穫した野菜を学校給食に使ってもらって食と栄養改善に努めるといった活動も支援してきている。

元々ハンドポンプだったところを太陽光発電のモーターポンプを設置して便利になった井戸(ケニア東部・キツイ郡)
元々ハンドポンプだったところを太陽光発電のモーターポンプを設置して便利になった井戸(ケニア東部・キツイ郡)

 アフリカ地域では近年、太陽光発電が急速に普及した。坂本大佑JICA専門家によると、給水施設についてもハンドポンプから太陽光発電による電気のモーターポンプへと切り替えるニーズが高まってきている。これにより、井戸を利用する住民たちからは、水汲み労働が軽減されたという喜びの声も聞かれる。

 地域の人々が生活をする上で切り離すことの出来ない安全な水の確保は、気候変動による影響を大きく受けていることを実感するこの頃だ。これまでは、乾燥地とはいえ、天水農業で農業生産も自給レベルなら持続出来ていたのに、近年の干ばつで天水農業が全く成り立たなくなり、壊滅的な状況に陥る脆弱な地帯がケニア国内でも増加傾向にあることは、国家レベルの問題となっている。

 9月に実施されたアフリカ気候変動サミットでも水問題が 重要な課題の一つとして取り上げられていた。地方給水という分野は、地道な仕事ではあるが、水問題に取り組む専門家やコンサルタントの方々への後方支援をこれからもきちんと続けて、地域住民の水問題解決に役立てるよう取り組みたい。

「安全な水を届けたい」岩手日報No.697号