「食の祭典」岩手日報No.187
2012年10月28日
車を所有していないこともあり、移動にタクシーを使うことが多い。タクシーに乗ると良く聞かれるのが、「どこの出身だ」ということと、「ペルーの料理は好きか、何が美味しかったか」ということ。職場でも食べ物の話が始まると、お国自慢に好みのレストランの枚挙が止まらない。とにかく国中がグルメと言ってもいいのかもしれない。また、非政治的な話題で誰でも参加できるテーマということもあるのかもしれない。
ペルーは食材が大変豊富な国でもある。海産物は太平洋に面したコスタ地域(海岸地域)、ジャガイモやトマト、唐辛子など様々な農作物は、国の真ん中を南北に連なるシエラ地域(アンデス山岳地域)、そして、マンゴーやパパイヤなどの熱帯果物やハーブが豊富なアマゾン流域のセルバ地域(熱帯雨林地域)。この様な多彩な気候風土によって生み出された豊かな食材に、ペルーの伝統的調理法を始めスペイン、アラブ、中国、日本、イタリアなど他民族の食文化が融合して今日のペルー料理ができあがっている。例えばペルーの代表的な海鮮料理である「セビチェ」は、ペルーの新鮮な魚介類とスペイン人が持ち込んだレモンの融合で、地元住民のみならず観光客にも根強い人気がある。
そんなペルーで、今年で5回目を迎える食の祭典・リマ国際料理フェア,
通称「Mistura/ミストゥラ」が9月7日(金)から16日(日)の10日間、リマ市内の会場Campo de Marte (ヘスス・マリア区)にて開催された。入場料だけでも20ソル(約600円)、料理も1皿1人前で12ソル(約360円)とペルー人にとっては、比較的高額であるにもかかわらず、主催者のペルー料理協会(Apega)によれば延べ約50万人が来場した。ペルー国の各州からお国自慢の料理に加えて、豚の丸焼きなどのペルー伝統料理、セビチェなどの海鮮料理、イタリア系や中華系、和食など54のレストランと70の屋台そして16の地方食堂がその味を競っていた。また、今年の会場はアンデス山脈をイメージしたデザインとなっており、中央モニュメント周辺の「グラン・メルカド (巨大市場)」を中心にレストランや仮設テント、展示スペースが設けられ、芝生や木陰のテーブルで購入した料理を食べれるようになっている。人気が高いお店には朝から延々と行列が出来、一時間待ちもザラとのこと。普段は割り込みとかも平気でするペルー人が、寡黙に列を作ってひたすら待っているのが印象的だった。
第4回目のミストゥラでは、テーマが果物であったが、今年はシエラ地域の農産物がメイン。日本ではあまり馴染みのない雑穀類であるキヌアやキウィチャなどのアンデス産穀類に加えて、ペルーが原産地であるジャガイモなどの農産物が、350以上の生産者の下に集まり、200以上のブースは、まさに市場の熱気。紫色のジャガイモを使ったフランス向けのフェアートレード承認のポテトチップを始め有機コーヒー、チョコレート、蜂蜜、トロピカルジュースそしてチーズといった農産加工品がそれぞれのブースに展示され、その試食をするだけでも結構お腹が一杯になった。またレストランのシェフも国内外から参加し、毎日午後に講演があり、最優秀パティシエならびに若手パティシエ、最優秀シェフおよび若手シェフが表彰され、食と言うより、グルメの祭典といった雰囲気で、これまでも欧米の雑誌「Time」や「Gourmet」でしばしば特集が組まれたのが、分かるような気がした。
9月のペルーは南半球ゆえ未だ冬の季節で肌寒く曇りがちであり、観光シーズンではないが、このミストゥラ目当てのツアーも国内外からやって来ており、この食の祭典が今度どう展開していくのか気になるところだ。
