「カフェ」岩手日報No.176

2012年8月12日

 5月中旬に世界遺産の一つであるペルー南東部のアンデス山脈にあるクスコ州マチュピチュを訪れた。州都のクスコ市をはじめとして、インカ帝国の中枢をなした遺跡や村々が残っているのが、インカの聖なる谷と呼ばれる盆地で周辺を5000m級の高峰に囲まれ、アンデスの今をその昔と変わらぬテンポで人々が暮らしている。

 我々がマチュピチュ訪問の帰りに4泊したのが、オリャンタイタンボというインカ時代の街並みや灌漑用水路が残る村。タンボとは地元のケチュア語で旅籠という意味。インカ帝国時代には要塞としても宿としても機能していたと言われている。現在では、マチュピチュ遺跡を訪ねたり、近郊の山々をトレッキングする人の中継地点ともなっており、人口が1000人弱の割には宿泊施設等が多い。

 この村で偶然知ることになったのが、イギリスのNGO が経営するカフェ「Heart’s Cafe」である。カフェで使われる食材は、このNGOが支援している周辺の村で作られたもので、まさに地産地消。売り上げの一部をプロジェクトに還元し、機織りや陶器などの住民による商品を店内で販売している。食事も、ボリュームたっぷりのスープが10ソル(約300円)、他にサンドイッチや定食、ベジタリアン向けのメニューなどかなり豊富で、近くの遺跡を見学に来た観光客などで賑わっていた。店内には、プロジェクトが支援している住民の生活を写した写真がかけてあり、その一部も販売している。

 このカフェの設立者であるSonia Newhouseさんが、ボランティアとしてクスコ州の聖なる谷に来たのは2002年で当時既に71才。本人には直接会って話す機会がなかったが、山村に住んで栄養失調の子供たちや、住民の生活改善に取り組み、その啓蒙普及をすべく、この村に小さなカフェを開いたという。2007年には、NGO「Living Heart」[1]を故郷イギリスと地元ペルーにてそれぞれ登録し、現在は5つの集落で学校給食の提供をしたり、氷点下になるアンデス高地の山村に防寒着等の寄付や、無医村地域への外国人ボランティア医師・看護士の派遣事業などを主に行なっている。また、最近では標高4000m台の高地で生活する住民の栄養改善を目指した野菜栽培向けのビニールハウス建設を計画している。面積が200m2のビニールハウスを1基建設する機材や栽培する野菜の種子も含めた総額は見積もりで約3500ドル(約28万円)。また、この施設を使って有機野菜を住民自ら栽培できるようになるための住民向け1年間の研修費用が約3000ドル(約24万円)。新しい試みなので、今後どのような成果が期待できるのか未知ではあるが、ビニールハウスで取れた有機野菜が、オリャンタイタンボのこのカフェで提供される日がそのうち来るのかもしれない。大した額ではないが、私も募金箱に寄付してこのカフェを後にした。

[1] www.livingheartperu.org

「カフェ」岩手日報No.176