「オランダの自転車交通」岩手日報No.276

2014年8月3日

 約3年間過ごした南米ペルーの首都リマでの主な交通手段は、長距離はともかく短距離であってもタクシーやバスなどの自動車であった。個人的には通勤や買い物に時々自転車を使っていたが、自転車の立場を理解しない運転手のマナーの悪さ、未整備な道路、そして排気ガス等、自転車は交通手段として、リマ市内では殆ど認識されていないのが現状だった。

ユトレヒト中央駅の駐輪施設
ユトレヒト中央駅の駐輪施設

 デンマークやドイツなどのヨーロッパの国々では、持続的な成長及び持続可能な社会を実現する政策として、政府が率先して自転車利用を推進してきた。 ここオランダでも、自転車は買い物や通勤・通学など短距離移動に主に用いられ、レジャーでもよく使われている。自転車人気が高い理由については、色々な要因があるが、その一つがインフラ整備であろう。オランダ政府の奨励策を受けて、都市部から地方まで全土に自転車専用道路や専用レーンが張り巡らされている。また、中長距離移動の場合は、地下鉄や路面電車、電車等への持ち込みも可能で、公共交通との連携が見事に取れている。日本でも通勤等で駅前等に駐輪をすることが多いと思うが、オランダでは最近、専用の自転車駐輪施設の建設が主要都市で進んでいる。ここユトレヒト市でも、中央駅西側に今年5月オープンした駐輪場は24時間営業で、4階建てとなっており、合計4200台の自転車が収容可能。OVカードと呼ばれる、JRのスイカパスみたいなICカードを使うことが前提になっているが、最初の24時間は無料というのが心強い(写真参照)。オランダは自転車盗難が多いが、こういうところに預けることによって盗難の心配をしなくていいのも嬉しい。

 こうやって自転車利用を推進していく上で、忘れてならないのが自然条件と国民気質であろう。オランダは、地形が平坦で年間を通して比較的温暖な気候である。国土の約4分の1が海面下で、地球温暖化による海面上昇が直ちに国土保全の脅威になるという状況でもあることから、政府が積極的に自転車利用を促進してきていたとされる。また、英語のことわざでGoing Dutch(オランダの流儀、つまり割り勘)と言われるだけあって、自転車はコストが殆どかからない上、健康増進にも貢献することから、オランダ人の合理精神にも合致する。

 ペルーなどの中進国では、地方から都市部への人口流入が近年進んでおり、交通基盤整理が追いつかず、市内での渋滞やスモッグ等の問題を抱えるようになってきている。 また、エネルギー消費の増加に伴った二酸化炭素CO2排出量増加に伴う気候変動等への影響も懸念されており、「スマートシティ」のような環境に優しい都市交通体系の確立が望まれている。日本を始めとする先進国では、モータリゼーションに埋没してしまった観のある自転車だが、ペルーなどの中進国においては、交通渋滞の緩和や、市民の健康促進、スマートシティのような省資源化を目指した環境配慮の街づくりを推進していく上で、自転車利用を改めて見直し、今後の都市交通政策に反映させていくことが必要であろう。