「ツールドフランス」岩手日報No.321
2015年7月12日
7月4日。自転車ロードレースの最高峰、ツールドフランスが開幕した。毎年スタートの都市が異なり、今年は私が住むオランダのユトレヒト市だった。
オリンピックの開催都市がこんな雰囲気なのかもしれないと思った2日間だった。ユトレヒト市は人口が約30万人で、普段は学生が騒ぐのが目立つ程度のごく普通の街だが、にわかにいろんな国の言葉が街の中を飛び交い始め、地図を持ったボランティアが目的地に向かう観光客を街角で誘導し、テレビ中継をするヘリコプターが市街をぐるぐる旋回する週末となった。
この2日間のために、年明けからいろんなキャンペーンや広告が市内にあふれた。1週間前の6月28日には試験走行を兼ねて市民にルートを開放し、老若男女問わずおよそ1万3千人が参加。4日が近くなるに連れて子どもたちのテニス大会でも大会運営者がツールドフランスのTシャツをそろえて着込んでいたり、市街の歩行者天国には黄色い垂れ幕がかかったりと、まるで七夕祭りを見ているような賑やかさだった。
オランダが出発点となるのは6回目で、2010年のロッテルダム以来5年ぶりだった。今年の参加は17のプロチームに加えて、招待枠を獲得した5チームの計22チーム。主催国フランスの5チームを筆頭に、米国3、ベルギー2、ドイツ2、ロシア2、イタリア1、スペイン1、オランダ1、カザフスタン1、英国1、オーストラリア1、スイス1、南アフリカ1と多彩な顔ぶれがそろった。
各チームはそれぞれ9選手で構成され、198選手がスタートラインに並ぶ。オランダはチームこそ一つのみだが、カザフスタンやスイスなど5カ国のチームにそれぞれオランダ人選手が所属しており、合計で20人(全体の1割強)が参加している。これはフランスの41人に次ぐ2番目の数で、オランダにおける自転車競技レベルの高さがここからもうかがわれた。
「ユトレヒトの観測史上最高気温」などとニュース等で前夜まで盛んに猛暑予想がされていた初日の4日。結局のところ予報に反して33度までしか上がらなかったが、それでもギラギラと照りつける太陽。それに負けず、13・7㌔の沿道にたっぷりと詰め掛けた多くのファンたちは、3時間半に及ぶレースを楽しんだ。
2日目が一斉スタートなのに対して、初日は数分ごとにレーサーがスタートし、市内のどこに居てもふらりと好きな場所に立ち寄り見物出来る手軽さが個人的には気に入った。
2日目は、雲が少し出て最高気温が30度と前日よりはずいぶん穏やかだった。開幕セレモニーが終わり、恒例のいわゆる「ゼロキロ地点アタック」で198人全員が本スタートを切ると、私は子どもたちと一緒に近所の通過地点で待つことにした。
道路際の観戦は、親子連れ、孫と一緒の老夫妻ら和やかな雰囲気で、スポンサーの車や警察のバイクが通り過ぎるたびに歓声が湧き上がる。そして、レーサーの先頭集団がやってくるとどよめきに変わった。そこから最後のレーサーが通り過ぎていくまでは30秒くらい。あっけなく終わり、気が抜けたように帰路に就いた。
26日まで続く長丁場のレース。オランダ選手の活躍に期待したいところだ。
