「シンタクラース」岩手日報No.385
2016年12月4日
シンタクラースというオランダ独特の行事があり、子どもたちが毎年楽しみにしている。日が短くなり、家にこもりがちな11月から12月初旬にかけて、ちょっとお祝い気分にさせてくれる恒例行事だ。
「サンタさん」とどう違うのか。よく尋ねられるが、シンタクラースは11月中旬にズワルト・ピートと呼ばれる大勢の付き人を伴い、プレゼントをいっぱい乗せた蒸気船で実際にオランダの港や運河に上陸することが大きな違いだ。
今年は11月15日に上陸し、12月5日の「シンタクラースの日」まで、シンタクラースとズワルト・ピートのイベントがオランダ各地で開催され、テレビでも中継されてきた。
各国にあるオランダ大使館等でも子どもたちを招待してくれることから、2014年までいたペルーでもその恩恵に預かった。
この伝統行事もここ数年は、付き人が黒人(ほとんどは顔を黒塗りにしたオランダ人)であるというこれまでの〝伝統〟を順守するか否かということで議論が続いており、植民地時代から続く人種差別だとし自粛するべきという変革派、子どもたちが楽しみにしてきた慣習なので続けるべきだという穏健派などさまざまな意見が飛び交っている。
黒くなければいいではないかという観点から茶色や赤、青といった顔色の付き人も誕生しており、議論はしばらく収まりそうにない。絵本に「チビクロサンボ」というのがあり、小さいころに何気なく読んでいたが、日本では既に消失してしまったのを思い出した。
折しも、来年3月に予定されているオランダの総選挙では、米国の45代大統領に選ばれたトランプ氏の影響もあり、どうやら保守的な政党が躍進しそうな勢い。各政党の政策提言等が目につくようになってきており、その中でもシリア等からの難民受け入れや、オランダ国民間での貧富の格差拡大が話題になりやすい。
各政党は人種差別に敏感になっており、夕食前に流れる子ども向けの番組でも、10年前だったら付き人の黒人がシンタクラースへのいたずらや悪さをして面白おかしく振る舞い、子どもを喜ばせていたのだが、今年は自粛気味だ。とは言え、この寒くなる季節、シンタクラースのような子ども向けのお祭り、そして年末のクリスマスなどを楽しみにして過ごしていくのも乙なものだ。
