「オランダの選挙」岩手日報No.396

 オランダ人がよく使う言い回しに「Doe Normaal」がある。意訳すれば「普通に振る舞いなよ」という感じだろうか。例えば、子どもがいたずらした時に両親が、酔っ払った取り巻きが変なことをしそうな時に友人が、この言葉を発する。

 15日投票のオランダ下院選(定数150)で、第1党を維持した中道右派の自由民主党(VVD)が打ち出していたスローガンが「Normaal Doen(普通に。そうする)」。これが幸いしたか定かではないが、変化を嫌い安定政権継続を望む国民の支持を根強く反映していたのかもしれない。

今回の下院選でユトレヒト市内の小学校に設置された投票所
今回の下院選でユトレヒト市内の小学校に設置された投票所

 今回の下院選は各国の関心を集めていた。反イスラムを掲げる極右の自由党(PVV)がもし第1党になれば、4~5月のフランス大統領選、秋のドイツ連邦議会選などでポピュリズム政党が大躍進するきっかけとなることが予想され、「オランダのトランプ」と呼ばれるウィルダース党首が首相になるのではないかという懸念もあったからだ。

 世論調査でPVVは投票日直前までVVDと第1党争いを繰り広げていたが、ふたを開けてみると思ったほど議席が伸びず、VVDとは10議席以上差が開いた。一方で、気候変動や環境保全を政策の重要課題としてキャンペーンを繰り広げたグリーン・レフト(GL)は前回の4議席から14議席へと大躍進。ともすれば風力や太陽光発電等の代替エネルギー導入が近隣のドイツやデンマークよりかなり遅れているオランダにとっては吉報となった。

 今回の結果から、リベラルと言われがちなオランダも結構保守的で、質実剛健な生活を多くの国民がこれまで以上に望んでいると感じた。反イスラムとか欧州連合(EU)脱退といった急激な変化は受け入れ難いのかもしれない。ひと昔前までは、社会保障も手厚く、健康保険等も自己負担がほとんどなく、貧富の格差もそれほど気になるわけではなかったオランダ。グローバル化の波にのまれつつも、欧州諸国では小国であることを自覚して、したたかに生き延びていかねばならないオランダ。政治が毎日の生活に身近にあることを意識しているからこそ、投票率が80%と高かったのであろう。

 今後は、どのような連立政権が樹立されるかが国民の関心事。前政権は二つの政党による政権だったが、今回は4党以上の連立が不可避とされ、連立交渉が難航することが予想される。まだまだ目が離せないオランダの政治情勢である。