「オランダとキルギスを結ぶチューリップ」岩手日報No.500
2019年5月26日
「オランダに住んでいる」と自己紹介すると、「チューリップですよね」と言われることがよくある。チューリップは、ユリ科チューリパ(Tulipa)属の園芸種を指す名称で、日本のホームセンターや園芸品店で販売されている球根の多くが、実はオランダから輸入された改良種である。
オランダの空港内でもお土産用に球根がチーズと並んで売られており、園芸が大好きだった祖母のために購入して持ち帰ったらすごく喜んでもらったこともあった。
いつもプロジェクトでお世話になっているキルギス農業大学のクバン教授と科学アカデミーのシャルピコフ局長にも去年の秋に空港内の免税店で購入した球根をお土産として手渡した。するとこの4月に再会したとき、庭に植えたチューリップが咲いている画像をうれしそうに見せてくれた。キルギスの人は黒っぽいチューリップがどうやら好みのようだ。
チューリップの原産国についてはさまざまな説があるが、野生種の多くはユーラシア大陸の中央部から地中海沿岸の北緯40度線に沿って自生している。中央アジアでは、パミール高原から天山山脈にかけて150種以上の野生種が自生しているといわれている。
雪解けの春には、いろいろな花が咲き乱れるキルギスだが、山里離れたところには野生のチューリップも咲く。開花の時季や場所はあまり知られていない(地元の人たちは知っていると思うのだが)ことから、目当てにうろついてもそう簡単に出合う機会がない。
たまたま、昨年は4月の第2週にタラス州で、今年は4月の第1週にチュイ州でそれぞれ黄色の野生種を目にすることができた。小ぶりでポツポツと咲いている程度なので、改良種の華麗さやオランダの庭園のような壮大さはないが、かれんな感じがする花である。
クバン教授はこれまで、キルギス南部などでリンゴなどの果樹の野生種に関する研究に取り組んできており、チューリップの野生種の球根を集めてくれと外国の研究者に頼まれたこともあったという。
育種向けにこれまでも欧米諸国の企業や研究者たちが、この国から何らかの形で持ち出しているに違いない。毎年新しい栽培種を生み出すオランダにも多くのチューリップの野生種が集積されているはずだ。
キルギスとオランダは地理的にだいぶ離れているが、チューリップという共通点があることに気づいた今回のキルギス訪問だった。
