「運河」岩手日報No.568
2020年11月1日
新型コロナウイルスの影響で、日常生活やビジネスにいろんな規制がかかっている昨今だが、道路工事やビル改修などは以前にも増しているようにも見える。そんな中、ユトレヒト市内をぐるりと取り巻く全長6㌔の運河のうち、埋め立てられていた1・8㌔を運河に復活させる工事が終了した
この区間は1971年から埋め立てられ、2010年まで高速道路として車が行き交った。ほぼ半世紀ぶりに運河としてよみがえり、9月中旬に開通式が行われた。
オランダの地方都市は昔から、日本のお城にある外堀のように、中心部の周りを運河で囲んでいるところが多い。 これらの運河沿いには街路樹などが植えられ、多くの住民が散歩などでくつろぐ貴重な緑の空間となっている。
住民と車との関係を再構築する試みとして、ユトレヒトの旧市街はアスファルトや排気ガスではなく、水と緑に再び囲まれていることとなり、住民のみならず遊覧船やカヌーなどを楽しむ観光客にも朗報となった。
ユトレヒト市は1122年に街として誕生して以来、およそ900年の歴史を誇る。中心部のショッピング街への車のアクセスを向上させるために1970年代に運河の西側が埋められることになった。
片側2車線(計4車線)で当時は市中心部へ車で簡単にアクセスできることを肯定的に考えられていた。1日平均で3万2千台の車両が通行していたという。かなりの交通量がある重要なルートの一つでもあった。
そんな高速道路であっても、時代が進むとともに「この運河埋め立ては実は間違っていたのでは」と考える住民が多くなってきた。そして2002年に住民投票が行われ、水が道路に取って代わるという、市の中心部マスタープランが承認された。
近年では、車を使わず、より健康的な生活を促進する「スマートシティ」という、より広範な試みをオランダでも多くの自治体が推進している。自転車専用道路の拡張や駐輪場の整備、建物の屋根に植物を植える運動など、その努力がいろんな形で後押しされてきている。
1970年代の高速道路建設も2010年に始まった運河復活の工事もすべて公共事業で膨大な資金を費やしたのは事実だ。一部には無駄なお金が投入されたことを非難する意見もある。
とはいえ、地球温暖化が深刻な課題となりつつある今、車に頼る便利な生活よりも健康的な生活、そして水と緑に囲まれた都市部の充実を願う住民が増えていること、そしてそれを後押しする自治体が存在することが何よりうれしい。
