「コロナとマスク」岩手日報No.543
2020年5月10日
欧州では当初、新型コロナウイルスがそれほど注目されておらず、オランダでも「コロナ危機はアジアの問題」と過小評価されていた。ところが2月中旬の謝肉祭の休暇に、多くのオランダ人がイタリアやオーストリアへ旅行して感染し、事態が深刻化した。
その後、重症者数が増加し、集中治療室(ICU)のベッドが足りなくなるというピンチに陥り、ドイツに一部重症者を受け入れてもらうことになった。5月5日現在、感染者数は4万1087人、死者はその1割強に当たる5168人となり、その数はまだ少しづつ増え続けている。
3月15日からレストランやカフェ、スポーツ施設、映画館などが閉鎖。翌日からは全学校が休校となった。休校は5月19日まで延期となったが、小学校だけは11日から再開することになり、不安を感ずる保護者や教師は多い。
他の欧州諸国と違い、オランダは今のところ、外出の制限がない。マスコミなどは歩く人との間隔を1・5㍍以上空けることを呼び掛けるが、マスク装着については何の勧告もない。私が3月上旬にオランダに戻った時、アジア人がマスクをしていると変な目で見られたものだ。
日本や多くのアジア諸国の高いマスク装着率と比較すると、オランダ人はマスクなしで自転車に乗ったり、買い物をしている。その姿はかえって不思議に思えてならない。マスクに慣れていないオランダ人は何かしら理由をつけて、装着を拒む傾向があるようだ。
またオランダ政府が、マスク装着をあえて宣言しなかった背景に、マスクの在庫不足があるのでは、と疑いたくなるような報道も散見された。オランダの老人介護施設は、入所者の死亡率がかなり高く、そこで働く介護士らに医療マスク装着が義務付けられていなかったことから、抗議の声が上がったのがその一例だ。オランダ国内での感染対策が後手となった印象は否めない。
日本で当然のようにマスクを着けているのはそもそもどうしてなのか、気になっていたところ、100年以上前に大流行したスペイン風邪で日本は多くの犠牲者を出した。その教訓として、手洗いやうがいの励行、マスクの着用という生活習慣を定着させる努力が地道に継続された、という記事を見つけた。
今後パンデミックがどのように推移するか予測は難しい。オランダ政府が生命を守り医療崩壊を防ぐことを念頭に、諸外国の好事例を参考に的確に動いてくれることを期待している。
