「キルギス共和国と気候変動」岩手日報No.340

2015年11月22日

 キルギス共和国(もしくはキルギスタン)と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるのだろうか? シルクロード、天山山脈、遊牧民あたりかもしれない。キルギス共和国は、北海道とほぼ同じくらいの人口(約560万人)だが、国土は日本の半分(約20万平方キロ)と広く、実に国土の9割以上が山岳地帯、国土の半分が標高3000m以上の高地という内陸国だ。また、親日国で、10月26日には、安倍首相が日本の総理大臣として初めてキルギス共和国を訪問したばかり。

 普段はオランダに住んでいるのに、なぜキルギス共和国なのかというと、この9月から新しく始まったJICAの「林産品による地方ビジネス開発プロジェクト」の一員としてしばらく関わることになったことに因る。11月初旬から現地入りしており、12月中旬までの予定でプロジェクトの立ち上げと関係者との会合等をこなしている。その一つとして、 ドイツの援助で始まったばかりの「中央アジアにおける地球温暖化対策プロジェクト」のワークショップが11月13日に首都ビシュケク市で開催され、参加した。年々後退するキルギス国内の氷河について研究している大学グループや中国と国境を接する天山山脈に今なお生育する希少種の雪豹を調査しているNGO等の発表もあり、地球温暖化による様々な影響が出ていることに改めて気づかされた。遊牧民が多く、羊や山羊、ヤク等の放牧で生計を立てている地方の人たちにとって、牧草地の乾燥化や不順な天候は脅威となってきている。

ビシュケク市内から望む4000m級の冠雪した山々。
ビシュケク市内から望む4000m級の冠雪した山々。

 美しい景観から「中央アジアのスイス」と称される同国で、 利用エネルギーの9割以上を豊富な水系を利用した水力発電に頼っている。その意味では、キルギスは地球温暖化対策の優等生国だが、近年地球温暖化によると思われる異常気象や氷河の後退によって水害や土砂災害が増えており、人々の安全と生活が脅かされてきている。豊かな水源も、氷河の減退により供給が不安定になることによって、水力発電や灌漑農業への影響が心配されている。

 キルギス共和国の政府調査によると、50年前の同国の森林面積は、国土の6~8%であったとされているが、現在の森林面積は、国土のわずか4.3%にすぎない。森林の多くは第2次世界大戦後から、暖房や調理などの燃料用として使われていたが、ソ連崩壊後の20年間に商業目的の違法伐採が進み、森林破壊が深刻化したとされる。同国の森林は、中央アジアの生態系にとっても重要な位置を占めており、地球温暖化を引き起こす二酸化炭素を吸収するだけでなく、中央アジアの水源である氷河とも密接な関係がある。今月末にパリで開催が予定されている気候変動枠組み条約会合(COP21)では、中央アジアのみならずコーカサス諸国とも連携し、様々な支援を求める方向だ。どのような取決めがされ、どんな対策が可能になるのか気になるところである。