「自然保護区」岩手日報No.522

2019年12月8日

 私が抱いていたキルギスのイメージは「半乾燥地帯で牧畜が盛んな遊牧民族の国」だった。ところが実際は山、谷、川、そして氷河もあり、野生の動植物も多く存在していた。

 絶滅の危機にひんしているユキヒョウもおり、2017年8月には首都ビシケクに世界中のユキヒョウ研究者や環境非政府組織(NGO)のメンバーが集まり、各国の生息状況や保護地区の整備などについて協議している。

 さて、この国には国際自然保護連合(IUCN)の四つのカテゴリーで最も厳格なリスト1に設定されている「自然保護区」が10カ所あるのだが、このうち、ジャララバード州北部の山岳地帯にあるサルチレク自然保護区を9月下旬、野生のリンゴやクルミ視察のために訪れた。

 面積約2万4千㌶と広大で、風光明媚な観光名所としても知られており、訪れた時はちょうどクルミ収穫の最盛期だった。車や馬で保護区内部に入り込み、クルミを持ち帰る地元住民らの姿を多く見かけたが、彼らにとっては貴重な現金収入を得るための手だてだという。

 また、炊事や暖房用の薪にしようと保護区内の木を伐採したり、家畜の放牧地としても利用しているそうだ。

サルチレク自然保護区の湖岸にて(左から、カナートさん、小池先生、トクトさん)
サルチレク自然保護区の湖岸にて(左から、カナートさん、小池先生、トクトさん)

 自然保護区というと、貴重でユニークな動植物が多く、生物の多様性保全に欠かせない場所というイメージがあるが、実は地元住民にとっては自分たちの生活を支える上で欠かせない場所という側面もあるのだ。私が携わっている林産品関連のプロジェクトの一員で、一緒に視察したカナートさんは家畜の放牧によりリンゴやクルミの母樹が劣化していくことを懸念していた。

 自然保護と住民の暮らし。この二つをいかに両立させるかという問題は、今に始まったものではない。

 私が青年海外協力隊員時代に2年間過ごしたネパール中西部・アンナプルナの自然保護プロジェクト(ACAP)では、住民の伝統的な生活(高山地帯での夏の放牧、自家用の薪採取など)を尊重しつつ、大型野生動物の狩猟を禁止。さらに太陽熱温水器や改良型かまどを導入することで、住民らによる木の伐採を減らすよう努めた。

 キルギスでは現在、中央政府の予算削減、組織改革などにより、自然保護区で働くレンジャーや研究者たちの活動費が限られている。

 サルチレク自然保護区に勤める科学者のトクトさんによると「ソ連時代は植林のための苗畑も完備され、野生のクルミの計画的な植林も行われていた」とのことで、実際に現場まで連れて行ってもらった。へき地にある自然保護区ではあるが、何らかの支援が必要だと思った旅であった。