「M-PESAという電子マネー」岩手日報No.595
2021年5月30日
携帯電話やスマフォ無しでの生活が考えられないのは日本だけではないとケニアに来てから思うようになった。特にコロナ禍では現金のやり取りを拒むお店などが多く、銀行口座を開くのに時間がかかっていた赴任当初は支払いに困ることが多かった。そこで使い始めたのがM-PESAという電子マネー。ケニアで2007年から世界に先駆けて始まったモバイル送金サービスの商標である。Mとはモバイル、PESAとはスワヒリ語でお金の意味である。ケニア国内にはエアテルなど他の会社の送金サービスもあるが、M-PESAが市場を独占している。
昨年12月にナイロビ市内で格安のスマフォを購入し、ついでに電子マネーも購入していたのだが使い方が意外と分からず、知り合いに教えてもらいながら徐々に慣れていった。困ったのは週末に散歩に出かけた郊外の公園への入園料支払い。現金やクレジットカードを受け付けず、電子マネーのみ。初回は「森林保全の仕事をしているが、今はM-PESA登録がまだ出来ていないので今回はなんとかならないか」と頼み込んで無料で入れてもらったが、流石に毎回頼むのも厚かましいので、電子マネーの使い方を学ぶことにした。いまでは宅配サービスの支払い、Uberなどのタクシー、アパートの光熱費支払い等幅広く利用している。日本だと銀行口座を持たない人が珍しいが、ケニアの場合は口座を開くためにかなり高額の現金を預けなければならないなど制約があり、都会に住む人でも口座を持つ人は限られている。また銀行のない地域に住んでいる人も多い。ケニアなどアフリカでは多くの人が出稼ぎや牧畜など生活をする上で移動が多い。これまでは現金を持ち歩くリスクに悩むか、ウェスタン・ユニオンなどの送金専門業者に高額な手数料を払って送金するなど、面倒だった。
便利なことが多いモバイル送金サービスであるが、欠点も見えてくる様になってきた。個人の電話番号を使うことから、時々勧誘や見知らぬ人からの電話が届く。「あなたのM-PESA口座に間違って支払ったから返却して欲しい」というメッセージが届き、直後に知らない人からメッセージは受け取ったか?と確認の電話が届く。そして「返却しないとあなたの口座は閉鎖される」と脅しのメッセージが追い討ちをかけてくる。まるでオレオレ詐欺のケニア版である。危うく引っかかりそうになった日本人がおり、その人から話を聞いていたので、私の場合は無視することが出来て無事だった。また、タクシーなどで使った日本人女性は、嫌がらせの電話を受けたりしたので、支払いを現金やカードにしたという。とはいえ、M-PESA無しの生活は考えられない位頼っているこの頃。ケニア国内でのコロナ感染を防ぐのにも一役買っているに違いない。
