本の現場読み「ザ・グレートゲーム」

本を読んで自分の感想を書くようになったのは、かれこれ10年前からのようだ。小さい頃は夏休みとかの読書感想文を書くのが苦手で、大学生になってから読書に親しむようになったものの、書簡みたいな形で書き残すことは殆どしていなかったし、子育てや仕事で忙しかった頃は、読む本は実用書が多かった。

ところが2015年秋から中央アジアのキルギスタンに仕事で通うようになり、その当時はオランダ拠点であまり日本語の本に出会えなかったところ、宝の山のような図書館を首都ビシュケクで見つけて、出張時の週末とかに読むようになったのがきっかけである。ご当地ものの題材が多く述べ4年間お世話になり、中央アジアに関するいろんな書籍を読み始めるきっかけにもなった懐かしい図書館である。その第一弾として紹介したのが以下の本である。これから随時書評をこのウェブサイトに追加していくようにしたい。

ザ・グレートゲーム

 今回のキルギスでの出張に備え、この10月に日本へ一時帰国した際に幾つか中央アジア関係の本(「中央アジアを知るための60章」明石書店)等を仕入れていました。ふとしたきっかけで、20年前に設立されたキルギス日本人材開発センターが宿泊先から歩いて20分程の距離にあることが分かり、とある土曜日の午後に出かけてみました。大学構内にある日本センターには、図書館があり、日本語の自習向け教材やビジネス関連の学習書はもちろんのこと、中央アジアやキルギスに関する書籍コーナーがあり、読みたかった本がかなり揃っているではありませんか。

 早速、図書室会員になり、手にとったのがこの本。サブタイトルにある通り、日本が未だ江戸時代末期だった19世紀初期から内陸アジアの覇権を巡って2つの帝国が探検隊やスパイを未知の中央アジアやアフガニスタンに派遣していたことを、イギリス人ジャーナリストが古い資料から紡ぎだしまとめた本です。英語の原書発刊は1990年。ちょうど冷戦が終わり、ソビエト連邦が崩壊した頃でもあります。

ザ・グレートゲーム

そして訳者の京谷公雄氏がこの本に出会って翻訳を始めた経緯も興味深いものがあります。1970年代に国際協力事業団(JICA)の窯業専門家としてパキスタンに4年間滞在し、アフガニスタンや中国の国境まで鉱山等に材料探しに出かけ、パキスタンの都市では本書の参考文献ともなる稀覯本(バーンズの「ブハラ紀行」等を買い集めていたとのこと。その後、原著に出会ってから著者と交渉して2年後にこの翻訳本をまとめており、526ページにわたる英語版を紙数の都合上386ページまで圧縮して編集する等、その努力が紙面からもヒシヒシと伝わって来る内容です。中央アジアの地図を宿泊先の壁に貼りながら、次々と出てくる慣れない地名(ちなみにブハラは今のウズベキスタン西部の沙漠地帯にあるオアシスです)を確認しながら少しづつ読んでみました。まさに、作家・椎名誠が推奨していた「現場読み」です。どなたがこの本を購入し、キルギスの図書室に寄贈していったのか分かりませんが、この本を手に取ることが出来、感謝の気持ちで一杯です。

(オランダ通信号外 2015年11月号 *2015月12月10日発行から)
出版情報:中央公論新社(1992)

https://www.amazon.co.jp/ザ・グレート・ゲーム―内陸アジアをめぐる英露のスパイ合戦-ピーター-ホップカーク/dp/4120021211