「ロイドの落水荘」岩手日報No.133

2011年9月18日

 夏休みの家族旅行で、米国の建築家フランク・ロイド・ライト(1867~1959年)の作品を見るため、東部ペンシルベニア州のベア・ランという渓谷に行った。

 ニューヨークのグーゲンハイム美術館で、彼の建築に接していたものの、今回は都会ではなく、自然に溶け込むよう設計されたカウフマン邸(別名落水荘)を訪問した。

 現在住んでいるワシントンから車で北西に約3時間の距離で、以前から一度訪ねたいと思いつつ、機会を逸していた。今回はカナダとの国境にあるナイアガラの滝も旅行目的の一つだったので、事前にネットで1時間のツアーを予約して出かけた。

 当日、受け付けには約10人のツアーグループがいて、ガイドと共に一緒にゆっくり歩いて渓谷を分け入り、木立の中に落水荘が現れた。

 建築主カウフマンは、昭和初期の当時、鉄鋼の街として栄えていたピッツバーグ市にある百貨店のオーナーだった。数十万坪の所有地にある狩用の山荘を建て替えるにあたり、建築家ライトに設計を依頼した。

落水荘を望む
落水荘を望む

 視察のため現地を訪れたライトが、カウフマンのお気に入りの場所を尋ねると、「滝の上の清流に頭を出している岩」と答えたそうだ。

 そしてでき上がった建物は、誰もがまさかと思うものだった。なんと滝の真上に建てられ、しかもお気に入りの岩が建物の一部になるように設計されていた。完成は1936(昭和11)年、ライトが69歳の時だった。

 ライトが「Fallingwater」と名付けたこの建物は後年、世界で最もロマンチックな住宅建築の一つとして称賛されている。ちなみに今年は、落水荘の建築75周年となりいろいろな記念行事が予定されている。

 訪問して驚いたのは、建築もさることながら、一流画家の作品がさりげなく、応接室や寝室に掛かっていることだった。ピカソのデッサンやメキシコ画家のディエゴ・リベラの作品、そして歌川広重の版画もあった。

 ツアー中、室内やベランダなどでの写真撮影は禁止されていた。息子2人もさすがに感動したようで、ツアー後、対岸に渡り、眺めのいい場所に陣取ってスケッチをして余韻に浸っていた。

 こういう自然との融和をテーマにした有機的な建築を見ると、和風建築に近いものがあると私も刺激を受けた。日本国内にも明治村の旧帝国ホテルなどライトの作品がある。今度一時帰国したら、家族と見に行きたいと思う。

 岩手県沿岸部は大津波で被災し、高台移転などが検討されていると聞いた。災害も含め自然とどう向き合い、どのように自然と共存して暮らしていくのか。落水荘を訪問し、そんなことも考えた。

「ロイドの落水荘」岩手日報No.133